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「母集団薬物動態法とは、単一の被験者に対する
薬物動態モデルの論理を拡張したものです」

 


 

母集団薬物動態解析は、臨床薬理学のエキスパートにとっては、ヒト被験者から得られたデータを扱う際の重要なツールとなっています。近年、集中的なPKサンプリングの実行が可能な健常人ボランティアから得られた薬物動態情報が、新薬の開発において活用されています。母集団薬物動態の手法は、患者もしくはその他のサブグループ(例:高齢者、小児、肝機能障害を持つ個体等)において想定される投与量の調節について評価する過程で開発されました。臨床研究者らは、こうした手法を活用して、薬物治療モニタリングおよび医薬品開発過程において役立てるようになりました。母集団薬物動態の手法は、治療および大規模な第Ⅲ相臨床試験に共通して見られる、臨床条件でのスパースな採血デザインに対応することができます。母集団薬物動態の手法のさらなる開発においては、試験のシミュレーションおよび最適化だけでなく、専用の臨床試験のない条件で対象患者集団に対する推奨投与量をサポートすることにも重点が置かれてきました。こうした応用方法の多くは医薬品開発作業の終盤で用いられますが、母集団薬物動態の原理および手法は、医薬品開発の初期における非臨床試験からfirst-in-human臨床試験への移行においても適用可能です。

母集団薬物動態学は、各被験者における濃度-時間プロファイルが数理モデルで記述可能であるという原理に基づいています。全身薬物濃度(C)は、式1で示す通り、時間(t)およびPKパラメーターのセット(θ)の関数と残差誤差(ε)との和で表されます。

式1

 

各被験者は、各々の特性および薬物濃度情報に基づくPKパラメーターのセットおよび残差誤差を持ちます。そのため、個体モデルのフィッティングでは、興味のあるPKパラメーターを生成するために薬物動態プロファイル全体が必要となります。

母集団薬物動態解析では、(1)個体薬物動態パラメーターを理論上の「標準的」な薬物動態パラメーターのセットに関連付けて、(2)既知の情報(例:年齢、性別、体重、表現型等)が個体の薬物動態パラメーターのばらつきに与える影響を定量化することにより、個体の解析が拡張されます。個体の薬物動態パラメーターと標準的な薬物動態パラメーターとの間の関係性を、式2に示します。被験者間変動を表す新たなパラメーター(η)を、追加しています。このパラメーターでは、同一のPKパラメーターにおける母集団もしくは標準値に対しての、個体のPKパラメーター推定値の相対的な分布が記述されます。

式2

PKパラメーター(θ)と被験者間変動パラメーター(η)との間の関係性についてのさらなる詳細を、式3に示します。この式では、個体のクリアランスに対するPKパラメーター(CLi)は、クリアランスに対する母集団の標準値(θ)およびその標準値から得られる個体の分散のランダム効果(ηi)の関数です。このモデルでは、PKパラメーターが固定効果、個体間変動がランダム効果として見なされています。そのため、この関数には固定効果およびランダム効果の両方が含まれており、混合効果モデルとなっています。

式3

個体のPKパラメーター推定値間における原因不明の変動を最小化する作業においては、式4に示すようにして、共変量と呼ばれる場合もある追加の固定効果をモデルに加えることができます。この時、個体のクリアランスの推定には各被験者の体重(WT)による調節が含まれており、70kgへの標準化および累乗指数0.75のアロメトリックスケーリングが適用されます。これらの共変量を追加する目的は、既知の情報を追加することでランダムな個体分散(ηi)をさらに減らすことです。

式4

母集団薬物動態法とは、単一の被験者に対する薬物動態モデルの論理を拡張したものです。母集団モデルを評価するためには個体モデルよりも複雑な統計システムが必要ですが、薬物動態パラメーターと観測された薬物濃度値との間の関係性を調査する根底となる原理は、個体の薬物動態法と母集団の薬物動態法とで一貫しています。

次のの2つの例では、医薬品開発プロジェクトの初期に母集団薬物動態法を実施することにより医薬品開発の手引きとなり得る追加情報を抽出することの価値について、説明します。

 


 

「母集団薬物動態の手法は、高齢者、小児、肝機能障害といった
患者サブグループにおいて想定される投与量の調節について
調査する過程で開発されました」

 


 

非臨床データ

母集団解析は非臨床データを扱う際にも効果的で、特定の生物種におけるPK/PDの特性を明らかにし、複数の生物種に渡るアロメトリックスケーリングを促進し、ヒトにおける暴露情報を予測することができます。例えば、サルにおける絶対的バイオアベイラビリティ試験について考えてみてください。多くのペプチド治療の皮下投与バイオアベイラビリティは動物からヒトへの予測が可能であるため、サルにおける単一のクロスオーバーバイオアベイラビリティ試験によって、第Ⅰ相臨床試験における吸収速度および吸収量についての情報が得られる可能性があります。このタイプの試験では、一般的に、ノンコンパートメント解析が濃度-時間データの評価において用いられ、暴露の測定値(例:AUCおよびCmax)が生成されます。この解析はこのタイプの試験の第一義的な手法としては適切ですが、データにはさらなる価値が含まれています。母集団薬物動態解析を行えば、被験者間変動についてよりよく知ることができ、PKパラメーターに影響を与える可能性のある患者背景の特徴を同一の濃度-時間データから抽出することができます。

Phoenix® WinNonlin®におけるノンコンパートメント解析に用いたものと同一のデータセットを、NLMEモジュールを用いた母集団薬物動態モデル(即ち、Phoenix Model)によって評価することができます。ユーザーは、「Population?」ボックスにチェックを入れてパラメーター化のタイプ、吸収モデルおよびコンパートメント数を選択するだけで、母集団薬物動態モデルを実行することができます

図1:Phoenix NLMEによる母集団薬物動態モデルのセットアップ。

この2コンパートメント静脈内投与モデルは、クリアランスパラメーターを用いてパラメーター化されており、以下のような式のセットで表すことができます。

式5

この時、a、b、αおよびβは、動物の各個体における静脈内投与量、中心コンパートメントおよび末梢コンパートメントの分布容積(V1およびV2)、クリアランス(CL)およびコンパート間クリアランス(Q))の関数で、εは誤差変動です。θ1は母集団(即ち、「平均的」なサル)における中心コンパートメントの分布容積、θ2は母集団におけるクリアランス、θ3は母集団における末梢コンパートメントの分布容積、θ4は母集団におけるコンパートメント間クリアランスです。4つのPKパラメーターのそれぞれにおける個体間変動パラメーターは、η1、η2、η3およびη4として表されます。基本方程式(式5の1行目)は、個体のコンパートメントモデルと同一です。その他の行によって、モデルの母集団効果が与えられます。モデルのフィッティング結果を図2に示します。2つの異なる投与レベルにおける個体モデルのフィッティング結果が、データ群の中央を通っています。

図2:個体の観測値における血漿中濃度-時間プロファイルおよび静脈注射後の母集団モデルのフィッティング結果。2つの異なる投与レベルにおける個体の観測値が、赤色の白丸で示されています。母集団モデルのフィッティング結果は、青色の線で示されています。

また、図3のモデル診断プロットは、観測値と予測値とを対にしたランダム分布がほぼY=Xの直線上にあることを示しています。

図3:観測値と母集団予測値とを対応させたモデル診断プロットおよびY=Xの直線。観測値(DV)および母集団予測値(PRED)の対が、Y=Xの直線(実線)にほぼ沿って分布しており、Y=Xの直線の両側に均等に分布しています。

この解析では、サルの各個体におけるクリアランスおよび分布容積の推定値が得られると同時に、これらの推定値における個体間変動も得られます。薬物動態パラメーターに加え、性別および体重を簡易的に評価することにより、薬物クリアランスが体重に比例するということが示唆されました。この共変量解析は、ワークフローにおいて使用されたモデルオブジェクトを複製して、新たなコピーをワークフロー空間上に貼り付けることにより、実行されました。求めたい共変量を構造モデルのセットアップ画面(図4)に追加するだけで、共変量の検索を実行することができました。

図4:Phoenix NLMEのモデルセットアップ画面において共変量を追加している様子。体重(WT)および性別(SEX)という2種の共変量が、モデルに含まれます。体重は、中央値を中心に分布します。いずれの共変量についても、後方の削除過程によって、VolumeおよびClearanceの薬物動態パラメーターに対する検証が行われます。

 この解析を実行することにより、体重(WT)および性別(SEX)の両方が、母集団モデルにおける4つ全部のPKパラメーター(V、V2、CL、CL2もしくはQ)に対する共変量として検証されます。この時、共変量モデルの出力が得られ、比較して最適なモデルフィッティングを決定することができます。この例の場合、体重はクリアランスに大きく影響する共変量で、クリアランスは体重の増加に伴って上昇することが示唆されます。モデルに体重を追加すると、個体モデルのフィッティングは改善し(図5)、母集団モデルのみの場合に比べて変動の詳細により明らかになります。フィッティングの改善は濃度が低い時に顕著で、より正確な予測値が観測され、データポイントがY=Xの直線により近接して並んでいます(図6)

図5:個体の観測値における血漿中濃度-時間プロファイルおよび静脈注射後の個体モデルのフィッティング結果。2つの異なる投与レベルにおける個体の観測値が、赤色の白丸で示されています。個体モデルのフィッティング結果は、様々な色の曲線で示されています。図2と比較してください。

図6:共変量モデルWTおよびCLにおける、観測値と母集団予測値とを対応させたモデル診断プロットおよびY=Xの直線。観測値(DV)および母集団予測値(PRED)の対が、Y=Xの直線(実線)にほぼ沿って分布しており、Y=Xの直線の両側に均等に分布しています。 図3と比較してください。

母集団モデリングを非臨床データ解析に組み込んだ場合、研究者は新たな知見を得ることができます。薬物動態パラメーター内の変動に関する情報を複数の生物種に渡って推定することにより、ヒト被験者において予測される変動についての知見が得られ、動物における将来の試験を計画する手助けとなります。共変量については有意性を検証することが可能で、これによって、メカニズムの理解と同時に、ヒトに与え得る影響についての情報が得られる可能性があります。Phoenix® NLME®を用いた場合、追加の母集団解析において必要となるのは単一のワークフローオブジェクトだけで、複雑な方程式のセットを手動でコーディングしなくても解析を実行することができます。

 


「母集団薬物動態の原理および手法は、医薬品開発の初期における

非臨床試験からfirst-in-human臨床試験への移行において

適用可能です」


 

  

初期の臨床データ

First-in-human試験は、用量漸増を通して一連の選別されたコホートのボランティアによって、新薬候補の安全性、忍容性および薬物動態が評価されるようにデザインされています。こうした試験の最重点はヒト被験者における新薬候補の安全性を評価することですが、豊富な薬物動態データがしばしば生成されます。First-in-human試験に対する標準的な薬物動態解析にはノンコンパートメント解析の使用が含まれており、薬物の暴露(AUC、Cmax)および消失(CL、t1/2)についての推定値が生成されます。母集団薬物動態解析の原理を適用することにより、格段に多くの情報をこの薬物動態データから収集することができます。

大規模なfirst-in-human試験が実施され、反復投与かつ複数の注射速度で静脈内投与用の薬物が投与され、13種の別々の投与計画が実行されました。親薬物および1次代謝産物から構成された血漿中濃度-時間データ(サンプル数2029個)が、56名の被験者から得られました。親薬物および代謝産物の血漿中濃度データを同時に記述する、親-代謝産物の結合薬物動態モデルが構築されました(図7

図7:親薬物-代謝産物モデルの概略図。親薬物の静脈注射後には、親薬物から代謝産物への転化(CLP-M1)および親薬物におけるその他のクリアランス(CLP)という、2つのクリアランス過程が存在します。 代謝産物は単一のクリアランス機構(CLM1)を持ちます。

このモデルでは、親薬物および代謝産物の両方のクリアランスだけでなく、不可逆過程である代謝産物M1の生成速度も推定されます。このモデルは、Phoenix NLMEのグラフィカルモデリング機能を用いて構築されました(図8)。ノンコンパートメント解析のデータセットを用いて、親薬物濃度カラムをCObsParオブジェクト(Concentration Observation Parent)へ、代謝産物濃度カラムをCObsMeオブジェクトへ割り当てることにより、母集団モデルを実行しました。Phoenix NLMEによって初期推定値が得られ、モデルのフィッティング過程が開始されました。

図8:親薬物-代謝産物モデル用に設定された、Phoenix NLMEのグラフィカルモデルエディター。親薬物の中心コンパートメント(C)および代謝産物の中心コンパートメント(C2)が、灰色の円で示されています。親薬物および代謝産物の消失コンパートメント(AParおよびAMe;尿等)は、灰色の台形で示されています。緑色の三角形は、親薬物および代謝産物の濃度観測値(CObsParおよびCObsMe)を表しています。親薬物のクリアランス、親薬物から代謝産物への転化および代謝産物のクリアランスに対するクリアランスパラメーター(CLpar、CLPar2MeおよびCLMe)は、白色の四角形で示されています。

 


Phoenix® NLME®を用いた場合、追加の母集団解析において
必要となるのは単一のワークフローオブジェクトだけで、複雑な方程式の
セットを手動でコーディングしなくても解析を実行することができます」 


 

 

解析の総時間は、最小化過程(パラメーターの推定)、37個のプロットおよび22個のデータ表の後処理、要約テキストファイルの準備を含め、10分未満でした。上述の非臨床データにおける方法と同一の方法を用いて、体重を親薬物の分布容積およびクリアランスの共変量として追加することにより、基本のモデルをさらに改良しました。

その結果得られたモデルからは、観測データへの妥当なフィッティングが得られました(図9)。このモデルによって、親薬物の総クリアランスに対する、代謝産物へ転化した親薬物の割合が明らかになりました。これは、ノンコンパートメント解析のみでは判らなかった事実です。最終的な親薬物-代謝産物の母集団薬物動態モデルを用いて、患者集団における反復投与の第2相試験での血漿中濃度-時間プロファイルのシミュレーションを行いました。こうしたシミュレーションは、動物毒性に関連する代謝産物が反復投与後に大量に蓄積しないということを証明する際に、非常に重要です。

図9:注射開始からの経過時間に対する、個体の観測値および予測値のプロット。左図のプロットは、投与後の時間経過に対する、代謝産物濃度観測値(赤色の円)および個体の予測濃度-時間曲線(様々な色の線)を表しています。左図のプロットは、親薬物における同様のデータを表しています。

 

結論

医薬品開発は複雑で多領域に渡る作業であり、医薬品の安全性および有効性についてのデータの信頼性を証明するには、数多くの様々な断片情報を統合する必要があります。そのため、いずれの薬事関係団体にとっても、医薬品を用いた試験から生成されたデータは最も貴重な資産です。

上記の2つの例で示した通り、標準的な薬物動態試験については、母集団薬物動態学の手法を用いて解析を行ってさらなる情報を抽出することができます。これらのモデルを医薬品開発作業の初期に開発することにより、収集されるデータが増えるごとにモデルが改良および最適化されます。

Phoenixプラットフォーム内でNLMEモジュールが緊密に統合されることにより、第Ⅲ相臨床試験を通じて初期の非臨床研究を元に薬物動態解析および薬力学解析を行う際に、使用し易い単一のツールを用いることができます

 

著者について

Nathan S. Teuscher博士は、1997年から医薬品業界に従事しています。David E. Smith博士に師事し、2002年にミシガン大学で薬学博士号を取得しました。大学院卒業後は、バイオテクノロジー、薬学および委託研究の分野で活躍しました。彼の経験は、臨床薬理学を通じた前臨床PKおよび薬物代謝にまで及びます。

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